10分でわかる『ストーリーとしての競争戦略』まとめ

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書籍紹介

楠木建の『ストーリーとしての競争戦略』について図解しながらまとめました。
私自身何度も読み返して戦略策定の際の参考にしている書籍であり、本記事で触れるのはごく一部のため、興味のある方は読んで見ることをおすすめします。

ひと言でまとめると

企業の最終的な目標は、5年~10年と長期にわたって持続可能な利益(SSP: Sustainable Superior Profit)といえる。利益の源泉には「業界の競争構造」と「戦略」の2つの要素があり、利益を出しやすい競争構造の中でビジネスをするのが重要であるが、大抵の場合既存事業があり自由にフィールドを選ぶことはできない。また、どんなに優れた競争構造でも環境は刻一刻と変化していくため、戦略が重要になる。

戦略の本質は「違いをつくってつなげること」
戦略ストーリーでは本質的な顧客価値の定義となるコンセプトを起点として、他社との違いを生み出す構成要素、それらが有機的に繋がりながら利益創出の最終的な論理となる競争優位を形成する。構成要素にはSP(戦略的ポジショニング)とOC(組織能力)が存在し、独自性と一貫性の源泉となる中核的な要素となるクリティカルコアが存在する。

このストーリーに一貫性があるかが重要で、構成要素をつなぐ因果論理の結びつきが強く/太く/長くあるほど優れた戦略と言える。

書籍のエッセンス

戦略ストーリーとは?

競争戦略は「誰に」「何を」「どうやって」提供するのかについての企業の様々な「打ち手」で構成されています。戦略は競合他社との違いを作ることです。それらがつながり、組合わさり、相互作用する中ではじめて長期利益が実現される

逆に戦略ストーリーでないものとしては、
1. アクションリストではない
2. 法則ではない
3. テンプレートではない
4. ベストプラクティスではない
5. シミュレーションではない
6. ゲームではない
が挙げられる。

競争戦略とは

本書で対象としている競争戦略の対象範囲は「特定の業界である企業の事業がその競争で他社とどのように向き合うのかの戦略(事業戦略)」である。対比されるのは「社内の複数の事業のポートフォリオ、経営資源の注力先/撤退などについての戦略(全社戦略)」であり、全社戦略はスコープ外である。

競争戦略の目的は、5年~10年と長期にわたって持続可能な利益(SSP:Sustainable Superior Profit)を生み出すこと。シェアや成長、顧客/従業員満足度、社会貢献や時価総額ではない。
例えば、シェア拡大であれば低価格戦略を取ればよいが長期的な利益は得られない。

利益の源泉

①業界の競争構造
利益を出しやすい業界と出しにくい業界があり、”どうやって戦うか”よりも”どこで戦うか”のほうが重要といえる。北極のような環境よりもハワイの方が過ごしやすい。競争構造はFiveForceの観点からさまざまな圧力をうけ、たとえどんなに魅力的な業界でも競合が参入してきたり技術革新や規制緩和で競争が激しくなる場合がある。

②戦略
そのため、業界の競争構造だけでなく戦略が重要になる。例えば、苛烈な競争構造にあるPC業界においても戦略を工夫することでDELLなどの企業が長期的な利益を上げている。

戦略とは他社との違いを作ること。逆に、戦略でないものとしては、目標設定(それ自体は戦略ではない)やバズワード(その言葉を口にした途端に思考停止に陥ってしまう)などがある

違いをつくる

「違い」にはポジショニングを重視するSP組織能力を重視するOCの2種類がある

SP: Strategic Positioning

ポジショニング(SP:Strategic Positioning)を重視する戦略。つまり企業を取り巻く競争環境の中で他社と違うところに自社を位置づけること。
間違いやすいのは、細かな仕様の違いは程度の問題(OE:Operational Effectiveness)であり、SPとは異なる。OEの追求は戦略ではない(doing different thingsであり、doing things betterではない)
いわゆるポーターの競争戦略はSPに着目した「無競争の戦略」である

SPの戦略とは「何をやり、何をやらないか」を決めること。明確なポジショニングによる違いを構築するためには「何をやるか」よりも「何をやらないか」を決めることがずっと大切。世の中トレードオフの関係になるのが大多数、何をやらないかをはっきりさせれば他社との違いを持続させることができる

【SPの企業例】
マブチモーター:標準化にこだわり、カスタマイズした製品は手掛けない
松井証券:法人向け業務は手掛けず、個人向けのネット取引に特化
デル:最先端の技術を追いかけずコモディティになった製品分野しか手を出さない、見込み生産をしない、外部チャネルを使わない

OC:Organizational Capability

組織能力(OC:Organizational Capability)を重視する戦略。
一般的な経営資源であるヒト、モノ、カネはそれ自身が競争優位の源泉としてのOCとはいえない。組織特殊性(他者が簡単に真似できず、市場でも容易には買えない)の条件を満たすものをOCという。具体的には、物事のやり方などルーティーンであることが多い。

【企業例】
セブンイレブン:本部一括ではなく各店舗での仮説検証型発注
トヨタ:トヨタ生産方式(TPS:Toyota Production System)ジャスト・イン・タイム/サプライヤーとの関係づくり、カンバン方式、平準化生産、自働化によるカイゼン、なぜを5回繰り返す問題解決など

なぜルーティーンとしてのOCは模倣が難しいのか
1. 因果関係の不明確さ: 日常的な「仕事の進め方」に埋め込まれているため、その実態が外部からは見えにくい
2. 経路依存性がある:内部で長い時間をかけて紆余曲折を経て形成されており、表面的に模倣しても同じ効果は得られない
3. 時間とともに進化する:これまでの情報やノウハウの蓄積から他社が模倣しようと思ってもすぐに追いつけない

SPとOC

SPの戦略の本質は、いかに競争圧力を回避するかであり、OCは、競争圧力を受け入れそれに対抗しようとする戦略といえます。

BMWは高品質を重視するのに対して、ヒュンダイは低コストを重視する戦略を取っている。どちらが優れているというわけではなく、SPが異なりこの二社は正面からの殴り合いを避けている
一方トヨタはどっちつかずのようにも見えますが、「トヨタ生産方式」に代表される独自のOCにより他社を大きく上回る収益性を実現している
SPがベクトルの向きに対応するのに対して、OCはベクトルの大きさに対応している

SP/OCともに競争優位を生み出す要素であるが、現実の企業の競争戦略はSP志向かOC志向のどちらかに偏る傾向がある。
SPは正面からの殴り合いを回避し、無競争の状態になるべく近づこうという考え方。SPタイプの経営者は自らの大胆ではっきりとした戦略低選択で競争優位を獲得したいと考えがち。
一方OCは時間をかけてでも独自能力を構築し、これをテコに既存のトレードオフを突破しようとする考え方。OCタイプの経営者は無理をしていればそのうちに無理が無理でなくなると考える発想をしがち。
それぞれトレードオフで日系企業はOCに軸足を置くことが多い

ストーリー

静止画ではなく動画。ストーリーとしての競争戦略ではその「つながり」に注目する。SPやOCは静止画にすぎない。これらをつなげてゴールに至る動画を構想する。ポイントは逆算して終わりから考えること。

戦略ストーリーの5C
競争優位 Competitive Advantage
コンセプト Concept
構成要素 Components
クリティカルコア Critical Core
一貫性 Consistency

競争優位

競争優位とは利益が創出される最終的な論理。WTPコストニッチ特化がある。

利益は顧客がWTP(Willing To Pay:顧客が支払いたいと思う水準)からコストを差し引いたものになる。競争優位を築く(利益を増やしていく)には、競合よりも顧客が価値を認める製品やサービスを提供してWTPを高めるか、競合他社よりも小さくする必要がある。そして第三の競争優位の確立方法はニッチ特化による無競争が挙げられる。

トヨタが低コスト戦略とすると、WTPに軸足をおいているのはベンツ/BMW/アウディなど。一方無競争はフェラーリやロールスロイスなどが当てはまる。フェラーリを買う人はベンツ/BMW/アウディなどは選択肢に入らない(選択肢として出てくるということは競争していることになり無競争にならない)。フェラーリをにおいては無競争状態を維持することが戦略の鍵になる。売れるだけ売らない、売れそうになっても我慢して売らない。積極的に注文を断り、絶対に成長を目指さない。それができて初めてニッチによる競争優位が成り立つ。

一貫性

ストーリーとは、2つ以上の構成要素のつながり。個別のつながりの良し悪しは全体の文脈の中で決まるものであり、個別のつながり単体では評価できない。そのため戦略ストーリーの評価基準はストーリーの一貫性といえる。

一貫性は3つの要素から成り立つ
・ストーリーの強さ:XがYをもたらす可能性の高さ。因果関係の蓋然性が高いこと
ストーリーの太さ:構成要素感の繋がりの多さ。一石で何鳥にもなるパス
・ストーリーの長さ:時間軸でのストーリーの拡張性や発展性が高いこと

筋の良いストーリーとは、明確な因果論理でつながっているパスが横にも縦にも伸びている状態。逆に筋の悪いストーリーは一応つながって入るが、因果論理が弱く”こうなったらいいな”と言った甘い期待でストーリーができている。

筋の悪いストーリー:ガソリンスタンドのクレジット機能付き会員カード戦略

会員カードはタイヤやエンジンオイルなど車周りの製品をいつ購入したのかを把握して交換時期が来たらダイレクトメールや店舗などで次の購入につなげるのが目的であった。「顧客囲い込み」「One To One マーケティング」などのバズワードで良い効果が生まれそうに思える。

しかし、
・ガソリンスタンドの商品購入サイクルは長いものが多く、他でエンジンオイルを交換してしまえば購入期間が2年も空くことになる
・ガソリンスタンドの商品は種類が少なく専門店と比べて買い回り情報を得ることができず、また専門店のほうが競争力を持っている。
・会員カードを乱発することで与信審査や債権回収などの人手を抱えることになり人件費が膨らむ
・カード会員の目当ては値引きで、ただでさえマージンが薄いなか更に利益が減る
など細くて弱いストーリーになっている。

筋の良いストーリー:ベネッセのコミュニティ

ベネッセ双方向のコミュニケーションでコミュニティをつくり、コミュニティが継続的に作り上げる人間的な価値を長期利益に転化している。
・「赤ペン先生」は生活のためにお金を稼ぐというよりも結婚/出産後も社会との接点を維持しながら自分の能力を活かしたいと思っている30~40代の主婦
・単純な答案の添削だけでなく、会員からのおたよりに答えたり、誕生日カードを送ったり人間味あふれるやり取りが意識されている
・赤ペン先生は地域ごとにグループを作っており、仕事の相談に乗ったりお互いの添削内容を検討し合うことでサービスの質の草の根的な向上がなされている
・このグループは気の合う仲間が集う場になっていて仕事を離れた交流が自然と醸成されており、赤ペン先生の定着率を高め、スキルの習得を促進し、質の高い会員サービスを強化している

筋の良いストーリーの構築

一つ一つのSPは活動の選択に関わる意思決定であり、それ自体は静的な性格を持っている。これに対してOCは時間とともに進化していく動的な側面がある。SPで意思決定したことから実際の実務によりOCが強化されていくなど、SPとOCは密接につながっている。

一つひとつの要素の模倣可能性は低くなくても、交互作用によりシステム全体での可能性はどんどん低くなっていく。例えば、それぞれの模倣可能性が90%だったとしても、3つの要素が加わると0.9×0.9×0.9=0.729 と急速に模倣難易度が上がっていく

競争優位の神髄はストーリーの一貫性であり、何を/いつ/どうやってやるかよりも、なぜ打ち手が縦横につながるのかという論理が大切である。これはベストプラクティスに学ぶだけでは難しい。

コンセプト

コンセプトとは、顧客に対する提供価値の本質を一言で凝縮的に表現した言葉
それを耳にするとわれわれは本当のところ誰に何を売っているのかどのような客がなぜそういうふうに喜ぶのか、要するにわれわれはなんのために事業をしているのか、こうしたイメージが鮮明に浮かび上がってくる言葉でなくてはいけない。

【コンセプトの優れた企業例】
ベネッセ:子供を含めた家族のコミュニティに学習を促進するコミュニケーション
ブックオフ:捨てないヒトにリユース生活のインフラ
ホットペッパー:生活圏の事業者と消費者に限定して生活情報の提供による消費マッチング

「誰に」「何を」をペアで考えることでコンセプトが動画になる顧客がその商品やサービスを認知し、反応し、購入を決断し、使用し、価値を認め、継続的に利用し、利用経験を蓄積し、更に満足を大きくしていくという一連の動きが見えてくる。そのイメージを思い浮かべ実際にそのような動きが生まれるのかを突き詰めることによって、なぜその顧客がその商品やサービスに食いつくのか、なぜお金を払うのか、なぜ喜ぶのか、なぜ喜びが持続するのかいくつものなぜが見えてくる

本質的な顧客価値を突き詰めるとは「誰が、なぜ喜ぶのか」をリアルにイメージするということです。逆に「誰にきらわれるか」をはっきりさせるというのが、良いコンセプトを描くための最も効果的な入り口となる。

【誰に嫌われるかの例】
カーブズ:女性専用のフィットネスクラブで男性は除外している
スターバックス:ゆっくりリラックスする空間を提供し、喫煙者や忙しい人にも嫌われている

人間の本性は変わらない。できるだけ賞味期間の長いストーリーを作るためにも人間の変わらない本性を捉えたコンセプトが大切。人間の本性を見つめることと、マーケティング調査をして顧客ニーズを知ることは異なる。顧客の声をいくら聞いても人間の本性を捉えたコンセプトにはならない。顧客は「消費すること」「買うこと」にしか責任がないから。顧客のニーズをいくら寄せ集めてもそれはコンセプトにはならない。

人間の本性を捉えた骨太のコンセプトを作るためには、その製品やサービスを本当に必要とするのは誰か、どのように利用し、なぜ喜び、なぜ満足を感じるのか、こうした顧客価値の細部についてのリアリティを突き詰めることが何よりも大切です。

クリティカルコア

クリティカルコアとは、戦略ストーリーの一貫性の基盤となり、持続的な競争優位の源泉となる中核的な構成要素であり、「他のさまざまな構成要素と同時に多くのつながりを持っていること」「一見して非合理に見えること」が重要

誰にとっても合理的な要素だけでできているストーリーは面白みにかける。部分的な非合理を他の要素とつなげたり組み合わせることによってストーリー全体で強力な全体合理性を獲得する

部分的にも全体的にも合理的なストーリーは普通の賢者の戦略で、合理的な打ち手を誰よりも早く出すことによって先行者優位を確立手して長期利益をものにするといった戦略である。間違いではないが、競合も同じ手法を取ってくると思われる。部分的には非合理で真似したくないが、全体のストーリーで見ると合理的であるという賢者の盲点が必要。

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