10分でわかる『良い戦略、悪い戦略』まとめ

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書籍紹介

リチャード・P・ルメルトの『良い戦略、悪い戦略』についてまとめました。
戦略策定の際、無意識のうちに「悪い戦略」に陥りがちですが、戦略とはどうあるべきかを正してくれる道しるべのような存在です。

ひと言でまとめると

戦略の基本は、最も弱いところにこちらの最大の強みをぶつけること、別の言い方をするなら、最も効率が上がりそうなところに最強の武器を投じることである

悪い戦略の4条件

  • 空疎である
    戦略高層を語っているようにみえるが内容がない。華美な言葉や不必要に難解な表現を使い、高度な戦略思考の産物であるかのような幻想を与える
  • 重大な問題に取り組まない
    見ないふりをするか軽度あるいは一時的といった誤った定義をする。問題そのものの認識が誤っていたら、当然ながら適切な戦略を立てることはできないし、評価することもできない
  • 目標と戦略を取り違えている
    悪い戦略の多くは、困難な問題を乗り越える道筋を示さずに、単に願望や希望的観測を語っている
  • 間違った戦略目標を掲げている
    戦略目標とは戦略を実現する手段として設定されるべきもの。これが重大な問題とは無関係だったり、単純に実行不能だったりすれば、間違った目標と言わざるをえない。

良い戦略の基本構造

  1. 診断
    状況を診断し、取り組むべき課題を見極める。良い診断は死活的に重要な問題点を選り分け、複雑に絡み合った状況を明快に解きほぐす
  2. 基本方針
    診断で見つかった課題にどう取り組むか、大きな方向性と総合的な方針を示す
  3. 行動
    ここで行動と呼ぶのは、基本方針を実行するために設計された一貫性のある一連の行動のことである。すべての行動をコーディネートして方針を実行する。

書籍のエッセンス

良い戦略は、①狙いを定めて一貫性のある行動を組織し、すでにある強みを活かすだけでなく新たな強みを生み出す ②視点を変えて新たな強みを発見する効果がある

新たな強みを生み出すこと

新たな強みは、他社が有しておらず自社だけが保有していると他からも予想もしていないため圧倒的な価値を生み出す。良い戦略は重要な一つの結果を出すための的を絞った方針を示しリソースを投入し行動を組織する。

成功事例:「砂漠の嵐」作戦(教科書通りの手法で勝利)
湾岸戦争で行われたイラク軍に対するアメリカ軍の攻撃戦略。多くの識者が戦争は長期化すると予想していた中、正面に囮となる陽動部隊が注意を引き主力部隊が敵側面から攻撃する、という想定していなかった戦略で短期間に戦争を集結させた。
教科書どおりの定石中の定石の手法が実際に行われた点が驚きであった。組織は複雑になるほどあちこちの利害に配慮してリソースを集中投下せずまんべんなく配分する傾向がある。

矛盾する目標を掲げたり、関連性のない目標にリソースを分割して配分したり、相容れない利害関係を無理に両立させようとしたりするのは、資金も能力もあるからこそできる贅沢である。多くの組織が的を絞った戦略を立ててようとしない。良い戦略に必要なのは、様々な要求にノーといえるリーダーであり、戦略を立てるときは「何をするか」と同じくらい「何をしないか」が重要である

新たな強みを知り弱点に気づく

自社の強味と弱味を見極め、状況のチャンスとリスク(あるいは敵の弱みと強み)を評価し自社の強みを最大限に活かす。

成功事例:ウォルマート(ネットワークシステムを活かした店舗展開)
スーパーマーケットを出店するにあたり、最低10万人以上の人口が必要という業界の常識に対して、ウォルマートは店舗間のネットワークシステムを作り上げることで成功した。バーコードによるPOS管理、サプライヤーを巻き込んだロジ、ジャストインタイムの在庫管理、大型店舗少量在庫といったことが作用し全体で1つの整然としたシステムを形成している。

成功事例:冷戦時のアメリカの国防計画(自国の得意分野で相手を疲弊させる)
冷戦時代にソ連に打ち勝つ方法として、自国の能力(技術開発の分野での人的/物的資源)で競争するべく、相手に多大なコストを強いるような行動をこちらが起こすことで相手を疲弊させる戦略をとった。ミサイルの精度改善や潜水艦の静音性向上に投資すればソ連は対抗せざるを得ないが、アメリカにとって脅威が高まるわけではない。ソ連のシステムが陳腐化するような技術に投資していった。

悪い戦略の4つの特徴

1. 空疎である

戦略高層を語っているようにみえるが内容がない。華美な言葉や不必要に難解な表現を使い、高度な戦略思考の産物であるかのような幻想を与える

「顧客中心」「クラウドコンピューティング」などのバズワードやそれらしい図でごまかして現実の問題に取り組んでいない。

2. 重大な問題に取り組まない:

見ないふりをするか軽度あるいは一時的といった誤った定義をする。問題そのものの認識が誤っていたら、当然ながら適切な戦略を立てることはできないし、評価することもできない

失敗事例:農機具メーカーのハーベスター(寄せ集めプランで真の脅威に取り組まない)
全米4位の大企業であったが、改革すべく先略プランを完成させた。プランは5つの事業部の寄せ集めであり、精緻なプランが記されていた。しかし、誰もが気づいていながら口に出さない脅威である”余剰人員や労使関係”について触れていないものであり、結局それが原因で潰れることとなった

3. 目標と戦略を取り違えている:

悪い戦略の多くは、困難な問題を乗り越える道筋を示さずに、単に願望や希望的観測を語っている

戦略と言いつつ、業績目標を挙げている会社が多い。また、願望や希望的観測により勇気や意欲や根性を期待しているが「最後の一踏ん張り」をひたすら要求するだけのリーダーは能がない、リーダーの仕事は効果的に頑張れるような状況を作り出すことであり、努力する価値のある戦略を立てることである。

4. 間違った戦略目標を掲げている

戦略目標とは戦略を実現する手段として設定されるべきもの。これが重大な問題とは無関係だったり、単純に実行不能だったりすれば、間違った目標と言わざるをえない。

寄せ集めの目標:やることリストは戦略ではない。
非現実的な目標:良い戦略は願望と手の届く目標の橋渡しをする

なぜ悪い戦略がはびこるのか?

困難な選択を避ける

意見が割れた時に議論が紛糾し決着がつかない場合に、すべての選択肢をごった煮にしたような案はたいていうまくいかない。選ぶという困難な作業を避け、どの意見も捨てず、誰の対面も傷つけないようにしていたら、良い戦略は生まれない。

成功事例:インテル(メモリ事業からマイクロプロセッサへの事業転換)
自社の中核事業で花形のメモリ事業は、日本企業との価格競争に耐えられず赤字を垂れ流していた。メモリ事業から撤退すべきは明らかであったが、決心がつかなかった。実際に改革を断行するにあたっても営業や研究部門の反発が大きかったがそれをやりきり世界最大手に上り詰めた。

会社が倒産の危機に瀕している時は別として、戦略を転換し資金や人材やエネルギーや注意をどこか一箇所に集中しようとすれば必ず不利益を被る人が出てくる。これはどんなに話し合っても、説得しても変化を望まない人たち。リーダーが選択に踏み切れず新しい戦略を導入することができないと八方美人型、当たり障りのない戦略物木でお茶を濁すことになる。

リーダーのカリスマ性だけでは解決しない

また、有能なリーダーはカリスマ性に頼らない。逆にカリスマ的な魅力があるからと言ってそれだけでリーダーとして有能だということにはならない。強力なリーダーは戦略遂行の意欲や自己犠牲を引き出すことはできるかもしれないが、追求する価値と実現する可能性を備えた戦略をのものを立てることとは別である。

考えなくてもできあがるテンプレート式の戦略プランニング

また、ビジョン、ミッション、価値観、戦略のテンプレートに沿って穴埋めするような「戦略プランニング」は正しい戦略ではない。一見して深い洞察に裏付けられているようなありがたいステートメントができあがるが、これらの美辞麗句は本当に有効な戦略を練り上げて実行しようというヒトにとっては空疎なレトリックや悪い戦略の存在は重大な障害物になる。

ポジティブシンキング

ジャック・ウェルチも「不可能を可能にする」マインド面の話をしているが、「戦略策定の第一歩は、持続的な競争優位となる何かを見つけ出すこと、言い換えればどうすれば勝てるかを見極めること」と話している。頑張る意欲が重要だと語る一方で、「競争優位がないなら競争するな」とも言っており、実際に家電、石炭半導体事業には「がんばれ」と入っていない。

良い戦略の基本構造

  1. 診断
    状況を診断し、取り組むべき課題を見極める。良い診断は死活的に重要な問題点を選り分け、複雑に絡み合った状況を明快に解きほぐす
  2. 基本方針
    診断で見つかった課題にどう取り組むか、大きな方向性と総合的な方針を示す
  3. 行動
    ここで行動と呼ぶのは、基本方針を実行するために設計された一貫性のある一連の行動のことである。すべての行動をコーディネートして方針を実行する。

良い戦略の基本構造を「カーネル(核)」と呼び、戦略の屋台骨となる。カーネルは戦略の考え方をあらわsい、戦略の策定を促し、戦略を表現し、行動へと駆り立てる。

1. 診断

戦略を立てる作業の多くは、何が起きているのかを洗い出すことにある。眼の前の状況のタイプやパターンがわかれば過去の類似の状況を探してヒントを得ることができる。また信頼できる診断がくだされれば、従来の戦略を評価できるようになるのでそれを軌道修正したり、状況に応じて方向転換したりもできる。

成功事例:IBM(メーカーからソリューションへの診断)
業界は細分化されコモディティ化が進み、社内外でもIBMは企業規模が大きくなりすぎたので分社化して細分化に対応すべきと言った提案がなされていた。その中でガースナーは「細分化が進む中で全ての分野に通じているのは悪いことではない。問題は総合メーカーであることではなく、総合的なスキルをを活かせていないこと」と診断した。結果、独自性と高度な技術力、ブランド力を生かして顧客にオーダーメイドのソリューションを提供するという基本方針が立てられた。

成功事例:アメリカの義務教育課程に関する診断
学業成績は、一学級の人数や年間教育予算よりも社会階層や家庭教育に左右されることが調査でわかっている。だが、これらの事実がわかったところで政策的に何も打つ手はない。
一方で、学校の問題は組織にあるとし、権限委譲の進んだ学校では生徒の成績も良く、成績のばらつきの一部が学校組織で説明できることがわかれば、十分に政策に反映させられる

2. 基本方針

診断によって判明した障害物を乗り越えるためにどんなアプローチで臨むかを示したもの。大きな方向性を示すだけで、具体的に何をすべきか逐一教えるものではない。

良い基本方針とは埋もれていた強みを引き出し、あるいは新たな優位性の源泉を開発して難局を打開するもの。現代の企業戦略では、とにかく競争に勝つことが最優先され、基本方針なしにいきなり細かい戦術に写ってしまう例が多い。重要なのはより広い視野から自社の戦略的優位性を探すことである。
基本方針を定めることで無数にあった手段の中から方針に沿った行動を選び一貫性を持って取り組めるようになる。

3. 行動

戦略には具体的に何をすべきかを明確にする必要がある。調和と連携がとれ、相互に補い合い、組織のエネルギーを集中するような行動がより大きな効果を上げる。戦略とはある具体的な課題に取り組む行動を連携・集中させるものでなければならない各事業部の責任者の「やることリスト」の寄せ集めでは戦略とはいえない

失敗事例:フォード(ボルボとジャガーの設計思想の共通化)
自動車産業では、1つのプラットフォームで年間100万台の生産がないと競争できないと考えられており、ボルボとジャガーの設計思想は一つにまとめられた。だたボルボ好きは「安全なジャガー」など欲しがらないし、ジャガー好きは「スポーティーなボルボ」などに興味はない。

良い戦略に生かされる強みの源泉

テコ入れ効果

良い戦略は、知力やエネルギーや行動の集中によって威力を発揮する。これをテコ入れ効果(レバレッジ)と呼ぶ。

近い目標

近い目標とは、手の届く範囲にあって十分に実現可能な目標を意味する。高い目標であっても良いが達成不可能ではいけない。
リーダーは複雑で曖昧な状況を整理してなんとか手のつけられる状況に置き換えなければならない。だが多くのリーダーがここでつまずいてしまう。何に取り組めばよいのか曖昧なままにしてむやみに高い目標を掲げてしまうことが多い。「最後の責任は自分が取る」というだけでなく、近い目標を設定してチームが動けるようにすることがリーダーの大切な使命である。

成功事例:ケネディ大統領の宇宙開発演説
ソ連に対抗すべく1961年の演説で1960年代中には月への有人飛行を実現すると述べた。個人のカリスマ的な魅力によって遠大な目標を実現してしまったように思われるが、実際に注意深く選ばれた近い戦略目標であった。この演説により組織のエネルギーを集結させることができた。

目標設定には階層がある。組織としての近い目標を適切に設定すれば、組織規模の大小を問わず、それを目安に下位の単位がそれぞれに近い目標を定め、さらに下の単位の近い目標につながり…と連鎖していく。
最重要課題に優先的に取り組むためには、他の重要なことがクリアできていなければならない。初歩から始めて段階を踏みより高い目標に到達できる。

鎖構造

企業や経済は、区割りのようにつながった構造になっている。そのような構造で1つ1つに単位(=環)が個別に運営されているとシステム(=鎖)全体は十分な機能を発揮できず「質的不整合」の問題が発生する。鎖構造の問題の解決にはまずボトルネックを見つける、そして短期的な損失は覚悟で将来に投資する覚悟を決める。

逆に鎖構造を強みにすることができる。強力なリーダーシップにより巧みに鎖構造を作り上げてしまえば容易には真似できなくなる。

成功事例:IKEA
駐車場を完備した巨大な店舗を郊外に展開し、豊富な選択肢から選べる。店員の数は少なくカタログが充実している。組立前の家具は平たく場所を取らず、運送費も保管料も少なくて住む。店内に在庫品を置いておけるので顧客はそこから選んで家まで持ち帰ることができ、配送されるのをイライラして待つ必要がない。デザインは自前だが製造は外注である。全世界に展開するロジスティクスはIKEAが管理している。
IKEAの方針は家具業界では異色であり、それらが緊密一体化して鎖構造を形成している。そのため、どれか1つを真似するだけでは効果が得られない。1つか2つ真似してもコストが余計にかかるだけでIKEAに対抗することはできない。既存の業者が本気でIKEAに対抗するにはゼロから事業を設計し直す必要があり、既存事業のカニバリにより誰もやらない。

ダイナミクス

平穏無事なときは戦略策定の手腕はあまり目立たない。安定期には後発企業が先行企業に追いつくのも、ライバルを圧してリードを奪うのも難しい、だが変化のうねりがやってくるときには戦略が物を言う
固定費(開発費用)の増加、規制緩和、将来予想におけるバイアス、既存企業の反応、収束状態などが変化のうねりがを察知するヒントになる。

慣性

組織が状況の変化に適応できない、適応しようとしない性質を慣性という。

業務の慣性
一定規模の企業であれば日々の業務が標準的な手続きが決まっていて、標準的な手続きは古いやり方を守ろうとする方向に作用する。平常時は気づかないが、外部から突然ショック(原材料の高騰、規制緩和など)が襲ってきたら存在が明らかになる。
陳腐化した業務慣行がもたらす慣性は経営者の意識が変われば退治することができる。新しいやり方が必要なのだとトップが理解すればあとは変化に俊敏に対応できる。

文化の慣性
文化とは社会的行動や価値観であり、変化に強く抵抗する。
企業文化の慣性を打ち破るにはまず単純化である。むやみにややこしい業務手続きを簡素化し、部門間の隠れた力関係を明るみにし、埋もれていたムダや非効率を排除する。
次に組織単位の分割をする。強力や調整を必要としない部署同士は分けるべき。
最後に適切な優先順位付けや取捨選択を行う

委任による慣性
企業が既存の利益の源泉がまだまだ安泰だと見込めるとき委任による慣性が働く。顧客から委任された慣性である。委任による慣性は既存企業が古い収益源にしがみつくのをやめ、競争環境に対応しようとした瞬間に消滅する。

エントロピー

年月とともに企業は荒れてくる。うまく動機づけられていないと次第に緩み、散漫になり、目的意識が低下する。新しい種をまく法が雑草を抜くよりも遥かに面白いが、定期的に雑草を抜いたり剪定をしたりしないと庭は荒れてしまう。

失敗事例:ゼネラルモーターズ(製品ラインナップ)
GMはこれまで似たような価格帯に複数の製品を投入していた。1920年に製品ラインを総合的に見直し、各ブランドの価格帯を明確にし、消費者の予算に合わせた車種を用意した。安い順にシボレー/ポンティアック/ビュイック/キャデラックとブランドを設定した。
その後1930年には世界最大の自動車メーカーになったが、その後1980年代には再び製品ラインやブランドのすみ分けが曖昧になってしまった。
シボレー部門は高めの価格設定のモデルを売り出せば部門の利益が増える。他社からシェアを奪うことができるかもしれないが、自社のポンティアックからもシェアを奪ってしまう。本来経営が各部門の甘い誘惑を断ち切り毅然として方針を堅持しなければならなかった。

戦略思考のテクニック

  1. カーネルに立ち返る
    診断、基本方針、行動のカーネルに立ち返る
  2. 問題点を正確に見極める
    そもそもの状況、診断に遡ってチェックする
  3. 最初の案を破壊する
    一つの戦略で満足せず、別の戦略を探す。大抵の人は最初のアイデアにこだわり、その派生バージョン歯科考えようとしない。状況をじっくり見て診断するところから戦略案を立て直して見る。最初の案の弱点をえぐり出し、矛盾を見つけ出して破壊することでより良い戦略とすることができる。

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