10分でわかる『ジョブ理論』まとめ

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書籍紹介

クレイトン・M・クリステンセンの『ジョブ理論』についての要約。サービス開発や方向性に迷った際に読み返して指針としています。
本書の中でも語られていますが、ジョブは文脈の中で効果を発揮します。今回エッセンスを損なわないようにまとめましたが、要約するにあたり幾分か劣化しています。SNHU、オンスターの事例など参考になる事例が多々あり、興味のある方はぜひ一度読んで見ることをおすすめします。マットレス購入者のストーリーなど生の声の重要性を体感できます。

ひと言でまとめると

顧客はある特定の商品を購入するのではなく、進歩するためにそれを生活に引き入れている。この「進歩」のことを顧客が片付けるべき「ジョブ」と呼び、ジョブを解決するために顧客は商品を「雇用」すると呼ぶ。

顧客がなぜその選択をしたのかを理解することが重要である。ジョブはそれが生じた特定の文脈に関連してのみ定義することができ、有効な解決策も特定の文脈に関連してのみもたらすことができる。ジョブには機能面だけではなく、社会的及び感情的な側面もある。

ジョブはニーズとは異なる。「健康でいたい」「定年後に備えて貯蓄したい」などのニーズは常に存在し漠然としている。ニーズは方向性を把握するには有益だが顧客が他でもないそのプロダクト/サービスを選ぶ理由を正確に定義するには足らない

書籍のエッセンス

既存の市場をあるイノベーションが転換させる破壊的イノベーションは、イノベーションに対する競争反応を予測する理論である。ただし、新しい機会をどこで見つけられるか、どうすれば顧客が買いたがるようなプロダクト/サービスを作れるかについては触れておらず成功は運頼みであった。ジョブ理論はそれらに応える理論となっている

ジョブ理論とは

ミルクシェイクの事例

ファストフード店でのミルクシェイク売上向上プロジェクト。これまで購入者層にどんな点を改善すればもっと買いたくなるかの調査を行った。値段を安く?量を多く?もっと固く凍らせる?チョコレート味を濃く?顧客のフィードバックをもとに潜在的ミルクシェイク購入層を満足させるイノベーションを実施したが何も起きなかった

「来店客の生活に起きたどんなジョブ(用事/仕事)が彼らを店に向かわせ、ミルクシェイクを”雇用”したのか」をヒアリングした。来店客は単にシェイクというプロダクトを買っているのではなく、彼らの生活に発生した具体的なジョブをミルクシェイクを雇用して片付けているのだ

午前9時前の購入層は店内で飲まずに車でテイクアウトしていった。理由は職場までの長い退屈な運転で気を紛らわせるものがほしいというものだった。特にお腹がすいている訳では無いが、しばらくするとお腹が空いてくる。シェイクのライバルは運転席で食べられる軽食類になるが、ドーナッツと違って手が汚れずに片手で飲みやすく、車のカップホルダーに置いておける。スニッカーズのように朝から甘いお菓子を食べているという罪悪感もない。ストローで飲み終わるのに20分ほどかかり、昼食までのつなぎにぴったりだった。

この朝にシェイクを買う人達に人口統計的な共通要素はなかった。共通するのは「朝通勤の間、目を覚まさせてくれて時間を潰させてほしい」というジョブがあった。そうであれば改善点は、より濃厚なミルクシェイク、フルーツやチョコレートのトッピング、すぐに購入できることなどが挙げられる。

一方、夕方は違った購入傾向があった。買い物のたびに子供のおねだりにノーと言い続けている親が唯一イエスと言える特別な場所になっていた。夕方のシェイクのライバルは玩具店に立ち寄ること、早く買い物を切り上げて後キャッチボールをすることである。夕方の親子は「子供にいい顔をして優しい父親の気分を味わう」ジョブであった。
そうであれば改善点は、父親の後ろめたい気持ちが短時間で済むように半分のサイズにすることであり、これは朝の購入客とは異なった方法が必要になる。

ミルクシェイクを購入するという結果は同じでもそこに至る基準は全くことなっている。シェイクの売上向上を考えた場合に取りうる方法は複数あり、”1つですべてを満たす”万能の解決策は結果的に何一つ満たさない

ジョブの定義

顧客はある特定の商品を購入するのではなく、進歩するためにそれを生活に引き入れている
この「進歩」のことを顧客が片付けるべき「ジョブ」と呼び、ジョブを解決するために顧客は商品を「雇用」するという比喩的な使い方をしている。

重要なのは顧客がなぜその選択をしたのかを理解することにある。ジョブとは進歩を引き起こすプロセスであり、独立したイベントではない、進歩は特定の問題を苦労して解決するという形を取ることが多いが、労力や問題を伴わないジョブも存在する。
ジョブの定義には「状況」が含まれる。ジョブはそれが生じた特定の文脈に関連してのみ定義することができ、有効な解決策も特定の文脈に関連してのみもたらすことができる。

ジョブの基本定義
・ジョブとは特定の状況で人あるいは人の集まりが追求する進歩である
・成功するイノベーションは顧客の成し遂げたい進歩を可能にし、困難を解決し、満たされていない念願を成就する。
・ジョブは機能面だけで捉えることはできない、社会的および感情的側面も重要であり、こちらのほうが機能面より強く作用する場合もある。

ジョブは日々の生活の中で発生するので、その文脈を説明する状況が定義の中心に来る。イノベーションを生むのに不可欠な構成要素は顧客の特性でもプロダクトの属性でも新しいテクノロジーでもトレンドでもなく状況である
片付けるべきジョブは継続して発生するものである。独立したイベントであることはめったにない。

ジョブはニーズとは異なる。「健康でいたい」「定年後に備えて貯蓄したい」などのニーズは常に存在し漠然としている。ニーズはトレンドに似ていて、方向性を把握するには有益だが顧客が他でもないそのプロダクト/サービスを選ぶ理由を正確に定義するには足らない。

ジョブ理論を理解する

ジョブは本来複雑であるため、分析しやすいようなデータに落とし込むことは容易ではない。ジョブは数字ではなくストーリーである。ジョブ理論が重点を置くのはなぜ?であり、誰が、でも何をでもない。
ジョブ理論を理解するには、特定の状況で進歩を遂げようと苦心している人を短編ドキュメンタリー風に頭の中で撮影してみるのだ

  1. その人が成し遂げようとしている進歩はなにか?
  2. 苦心している状況はなにか?誰がいつどこで何をしているときか
  3. 進歩を成し遂げるのを阻む障害物はなにか?
  4. 不完全な解決策で我慢し、埋め合わせの行動を取っていないか、ジョブを完全には片付けない商品やサービスに頼っていないか。複数の商品をツギハギして一時しのぎの解決策をつくっていないか
  5. その人にとって、より良い解決策をもたらす品質の定義はなにか、またその解決策のためにトレードオフにしても良いと思うものはなにか

ジョブ理論が適用できない場面

消費者がさほど困っていなかったり存在する解決策で十分間に合っていたりするときは役に立たない。商品取引のようにほぼ全てが数学的分析によって決定される場合にも有益ではない。コストや効率はジョブ理論でいうジョブにとって中核をなす要素ではない。

より深くジョブを理解する

SNHU(サザンニューハンプシャー大学)の事例

全米で指折りのイノベーションに富んだ大学と称されているSNHUは10年前は二番手の教育機関で経理や秘書養成の学校であった。大学改善に取り組んだが、18歳向けのキャンパスライフを充実したい若者向けの大学としては地元に名のしれた競合がたくさんいて成長できずにいた。

一方、SNHUには通信課程というオンライン学修プログラムがあり、メインキャンパスの片隅でひっそりと行われている活動であった。しかし、中断した大学教育を人生のあとになって再開始したいと臨む一定数の学生を惹きつけていた。オフラインプログラムはあくまで傍流扱いであり、資源はほとんど透過されていなかった。
ジョブ理論の観点から考えれば、会計学の学位を得ようと働きながら勉強している35歳と同じ学位を得ようとしている18歳は全く違うものになる。

SNHUのオンラインプログラムの競争相手は地元の大学ではなかった。全米規模で展開している他のオンラインプログラムだった。伝統的な大学に併設されたものもあれば、より良い職の獲得に役立つ訓練と資格取得に的を絞った営利教育機関もあった。最も手強い競争相手は「無」だった。人生のその段階でさらなる教育を受けないことを選択している人々。無との競争の観点に立つとマーケットは一気に広がった

例えば、18歳向けの奨学金の対応であれば問い合わせから24時間以内に定形の返信文と、1週間以内の書類一式の送付でゆっくり進めていけば十分であった。なぜらなら奨学金の決定は親に取って重要かも知れないが、学生自身にとっては決定的な要素ではなかったから。
一方、すでに働いている通信課程の学生にとって学費の懸念は極めて重要である。大人の学習者が社会人教育プログラムを能動的にオンラインで検索しているのであれば、その人にとって期は熟しており、決断する瞬間に極めて近いところにいる。24時間以内に定型文を返信するような対応は何もしていないのと同じであった。

1. 顧客は進歩を遂げるためにどんな体験を求めているか
奨学金の問い合わせに俊敏に返答すること。24時間以内の定形メールの返信をやめ、10分以内にSNHUの担当者が電話することに変えた。オンライン学習サービスでは最初に話をした機関に決めてしまうことが多い。電話は1時間に及ぶこともあるが、電話により相手の心配事を引き出し入学志望者と結びつきができ入学移行が高まっている

2. どのような障害を取り除かなくてはならないか
志望者の大きな懸念である奨学金の範囲と以前通っていた大学の単位互換を早期に返答すること(これまでは数ヶ月かかっていた)

3. 社会的、感情的、機能的側面について何を考慮すべきか
社会に出たあとで学ぶ人のジョブをどのように満たせるかに焦点を絞った広告を見直した。キャリアの向上に必要な訓練が受けられるといった機能面だけでなく、ゴールが実現した時に感じる誇りや愛するものへの約束の成就など、感情的及び社会的側面も重視する。

また入学までの家庭は始まりに過ぎず、入学後にも一人ひとりにアドバイザーをつけるなど落伍者が出ないようフォローしていく。

ビッグハイアとリトルハイア

顧客がプロダクト/サービスを雇用する時に下す決定には2つの重要な瞬間がある。ビックハイア(大きな雇用)と呼ばれる、人がプロダクトを初めて買う瞬間のみを追跡する。しかしそれと同じくらい重要なのはそのプロダクトを消費するときだ。消費者が商品を購入して実際に消費されることをリトルハイア(小さな雇用)と呼ぶ。企業が集めるデータはビックハイアしか反映されておらず実際にその品が顧客の片付けるべきジョブを解決したかどうかは現れない。

雇用と解雇

そして新たなソリューションを雇用したということは何かを解雇したということである。企業は自社製品が雇用されるために必要なのは何を解雇させることなのか、を十分考えていない事が多い。何を解雇して何を雇用するかを決める意思決定プロセスは店舗に入る前から始まっていて、非常に込み入っている。何らかの選択を行う瞬間には常に2つの相反する力が綱引きしていて、重要な役割がある。

1. 新しい解決策に乗り換えようとする力
顧客が解決したい問題への不満は顧客にアクションを取りたいと思わせるほど強くなければならない、単に面白くないとか気に入らないと感じる程度なら人にこれまでと違う行動を取らせるきっかけにはならない可能性がある。また新しいプロダクト/サービスが引き付ける力も十分に強い必要がある

2. 変化に反対する力
現行の習慣と、変わることや新しいことへの不安。現状に満足していないが少なくとも今のやり方に慣れている。

例えばこれらの不安を解決すべく、オンラインバンクのINGダイレクトはアメリカとカナダの街角にカフェ風の店舗を開きバーチャル銀行に対する顧客の不安を軽減している。SNHUは実際にキャンパスを持った大学である事実は怪しげな学校ではないという不安を軽減している。

このように新たな商品に乗り換える時摩擦が生じるものであるが、自社製品が素晴らしいと信じ込んでいるイノベーターはそうした懸念に無頓着なことが多い。逆に、機能しか提供できない解決策はたやすく解雇される。一方、感情的、社会的側面が深く関わる解決策は解雇されにくい。新しい魅力的な製品ができても乗り換えをためらわせる力が大きくなるからだ。

ジョブに適していることを伝える

ジョブに適していることを伝えるためにレビューは非常に役に立つ。同じようなジョブを持っている人のレビューにより購買意欲に大きく影響する。一方で、企業は歴史上初めてプロダクトを雇用してほしくない人にそのことをどう伝えるかを悩む時代になった。

プロダクト/サービスを片付けるべきジョブと同義になるまで結びつけることができれば誤った理由で顧客に雇用されることはなくなるジョブと同義になったようなブランドをパーパスブランドと呼ぶ

ジョブ理論を実現するための組織

ジョブ中心の組織構造

成長を遂げる企業はジョブを中心に組織を最適化する。顧客のジョブの遂行に社内プロセスを統合することは自社製品を強力に差別化するためのメカニズムになり心の競争優位をもたらしてくれる

例えばSNHUは、以前であれば問い合わせに対して週単位でどれだけ対応したかをKPIにしていた。しかしジョブが明確になってからは問い合わせに対する電話の折り返しは10分以内を目標にし、出願検討者に変わって履修証明書を取得する許可を得るようにした。現在のKPIは出願検討者が以前の学校で習得した単位やその他必要な情報全てを用意して数日以内に再びSNHUに電話をかけてくるかどうかに設定している。

イノベーションのデータの3つの誤謬

能動的データと受動的データの誤謬
ジョブを解決するために必要な情報は顧客が苦労している文脈の中にある。そのような情報は声を上げずはっきりした構造もない「受動的なデータ」である。
一方、売上/利益、顧客のデモグラ/属性データ、競合との比較データは非常に役に立つ。追跡しやすく計測も容易で乱雑な受動的データに比べて堅固で具体的な能動的データの方が居心地が酔うマネージャーに安心感をもたらす。組織の情報フィルターが多層化するに連れてジョブではなく数字の管理に陥ってしまう。

② 見かけ上の成長の誤謬
顧客との関係強化のために市場に出回る他社製品を見て模倣したり買収したりして既存顧客にプロダクトをもっと売ろうとする。これを見かけ上の成長と呼ぶ。それによって対象顧客を広げプロダクトの種類を増やしてしまいがちであり、そして最初の成功をもたらしたジョブへのフォーカスを失う。多くの顧客向けに多くのジョブを片付けようとすれば顧客は混乱し本来ジョブを片付けるのに適さないプロダクトを雇用し、後に苛立ってそのプロダクトを解雇することになる。

③ 確証データの誤謬
人間はデータやメッセージを自分が信じたいように適合させてしまう。
事実を洞察として扱い、データから行動へ一息に飛躍する傾向がある。アイデアを引き出すための道具としてではなく、自分の意見を補強するために調査を活用する時によく見られる。
AかBかリーダーが重大な決断を下したように見える。ところが、その決断に向けて考察を一つひとつ積み重ねていくうちに、データはどちらかに向かって歪んでいく。明確なデータをもとに大胆に決断したのだとリーダーは思いたがるが実際はすでに決まっていたのだ。

ジョブを中心とした組織

ジョブを中心とした組織の4つのメリット

  • 明確な目標を共有し意思決定を分散できる。組織の全社員がジョブにフォーカスした適切な決断を想像力豊かにしかも自律的に下すことができる。
  • 重要なことに資源を配分し重要でないことからは資源を開放できる。
  • 社員のやる気を引き出し、彼らが好きなことをできるような文化を作り上げる
  • 顧客の進歩、社員の貢献、意欲など重要な点を想定できる。

オンスター(GMのコールセンターサービス)の事例

通常であればリアルタイムナビゲーションは上位プランにしか含まれていなかったが、ハリケーン襲来時に全プランに対してサービスを提供した。もちろんハリケーンに巻き込まれたくなければアップグレードを促すと言うのは強力な宣伝になるがコールセンターの担当者にとってはそれは正しいことに思えなかった。オンスターの責任者は該当エリアからの問い合わせに対して全てのサービスを提供することにした。技術的にも非常に難易度の高いものであったが、チーム全体として片付けるべきジョブが明確であったため社員が何が重要化を明確に理解できるので適切な行動を意欲的に取ることができた

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