元任天堂企画開発者の玉樹真一郎さんの『「ついやってしまう」体験のつくりかた』についての要約。実際のテレビゲームの作品を例に、人を動かす直感/驚き/物語の仕組みについて語られています。
ひと言でまとめると
「つい やりたくさせてしまう」「つい 熱中させてしまう」「つい 誰かに言いたくさせてしまう」この「つい」こそが体験デザインの持つ力である。
具体的には、①シンプルで簡単な体験で直感させる「直感のデザイン」、②予想が外れる驚きで疲れや飽きを払拭する「驚きのデザイン」、③体験を通してユーザー自身の物語を生み出させる「物語のデザイン」
これらによって心が動く体験をくぐり抜けた結果記憶に残る思い出となる。強く感情が動くほど長く強く記憶に残る。
書籍のエッセンス
直感のデザイン
直感のデザインはシンプルで簡単な体験で直感させるもの。初めて目にする製品やWEB画面など、知識のない状態から自発的に学び面白いと思ってもらえるようにするにはどうしたらよいか。
例えば、マリオワールドの最初のステージで右に進むとクリボーが出てくる状況、
仮説を立てて、不安の中で実際に試してみて、仮説が当たって喜ぶといった一連の心の動きが生まれる。
この直感のデザインの連続を続け、ある閾値を超えたときにプレイヤーは意識的に「面白い」と自覚できるようになる
直感のデザインとは
1. 仮説:「〇〇するのかな?」と相手に仮説を立てさせる
2. 試行:「〇〇してみよう」と思わせ、実際に行動で確かめさせる
3. 歓喜:「〇〇という自分の予想が当たった!」と喜ばせる
の3段階でデザインできる。
これらの「仮説→試行→歓喜」の流れでプレイヤーが自分の力で直感的に理解するという体験を得て、次第に面白いと感じられるようになる
- 体験そのものをシンプルで簡単にすることが成功確率を上げるための絶対的な条件
- 理解すべき各要素はなるべく最初に持ってきたほうが良い。「初頭効果」として体験のはじめ頃に集中力や学習効果が高まる
- プレイヤーが何をすればよいかを伝えることに集中する。(面白そうだと思えることすら捨て去って良い)。商品やサービスにおいても「良さ・正しさ」を伝えるよりも、まずは商品やサービスとの関わり方が直感的に「わかる」ことを優先させるべき
- 人々に共通する脳や心の性質、記憶が直感を生み出す原動力となっている。体験をデザインするデザイナーは、自分の感性や記憶だけに従ってデザインしている限り良い体験は提供できない。人間を理解し、どんな共通の性質を持っているか、記憶を持っているかユーザーを起点にしたデザインが必要
驚きのデザイン
「仮説→試行→歓喜」の直感のデザインであったとしても、同じような体験が何度も続けば疲れと飽きがでてくる。
なぜなら脳は同じ刺激が何度も繰り返されると反応が徐々に弱まっていくように設計されている。脳の学習機能を活性化するために脳の予想を外す体験(=驚き)をあえて織り交ぜることが必要。
「誤解→試行→驚愕」の3つの体験が疲れや飽きを拭い去り長時間の体験をもたらす。「なぜゲームは遊び続けられるか」の答えは、連続する直感のデザインに驚きのデザインを織り交ぜているから
驚きのデザインとは
1. 誤解:疲れや飽きのタイミングを見極める
2. 試行:誤解へ導く世界観を事前に構築する
3. 驚愕:誤解が露呈する演出をデザインする
前提への思い込みを覆すのはやめて日常への思い込みを破る「タブーのモチーフ」だけで驚かせる
タブーのモチーフ
性のモチーフ:ときめく感じ、エッチな感じ
食のモチーフ:美味しそう感、腹減った感
損得のモチーフ:お金欲しい感、損したくない感
承認のモチーフ:認められた感、所属している感
けがれのモチーフ:汚い感、罪悪感
暴力のモチーフ:痛い感、一方的感
混乱のモチーフ:まちがってる感、クラクラ感
死のモチーフ:死に近づく感、オカルト感
射幸心と偶然のモチーフ:賭けている感、祈っている感
プライベートのモチーフ:恥ずかしい感、秘密感
物語のデザイン
物語のデザインは
1. 翻弄:物語を理解しようとするプレイヤーを翻弄し物語らせる
2. 成長:物語中の主人公同様、プレイヤーを成長させる
3. 意思:プレイヤー自身の意思で運命を切り開かせる
- 物語は二つの要素、物語内容(ストーリー)と物語言説(ディスコース)から成る。「何があったか」が物語内容、「どう伝えるか」が物語言説
- 脳は常に自信を取り巻く世界の全体像や状況を把握したがっている
- よい物語は個々のシーンに含まれる情報量と能動的/受動的の要素で波を作っている
- ある情報の真意がわからない状態でいったん提示したうえで、時間差で真意に気付かせる(伏線)
共感とはどのような状態を指すのか
・主人公に対して興味を持っていること
・「主人公も自分と同じ思いを持っているに違いない」と信じられていること
・憎しみ以外の感情で共感すること