近年ニュースなどでも取り上げられるオーバーツーリズムについて、その原因と対策事例についてまとめました
オーバーツーリズムとは
JTB総合研究所では以下のように紹介されています。
特定の観光地において、訪問客の著しい増加等が、地域住民の生活や自然環境、景観等に対して受忍限度を超える負の影響をもたらしたり、観光客の満足度を著しく低下させるような状況。
JTB総合研究所 https://www.tourism.jp/tourism-database/glossary/over-tourism/
一方、各種報道やSNSでは観光公害に関する曖昧な流行語、マジックワードとなっているように感じます。
国連世界観光機関 (UNWTO)の報告書ではの『「オーバーツーリズム(観光過剰)」?都市観光の予測を超える成長に対する認識と対応』でも上記と同様の定義がなされているが、その混雑の観点の一つとして観光収容力が挙げられている。
観光収容力
物理的、経済的、社会文化的環境を破壊することなく、また、訪問客の満足度を許容できないほど低下させることなく、1 ヶ所のデスティネーションを同時に訪れることができる最大人数
以下の4点がオーバーツーリズムの理解に必要である。
1. 観光客の数だけでなく、それに対応できるキャパシティが関係する
上記の観光収容力(キャパシティ)の話であり、単純な観光客の絶対数ではなくキャパシティとのバランスが重要である。ごく少数の観光客でもキャパシティが小さければ問題が発生するし、多くの観光客が押し寄せてもある程度のキャパシティがあれば対処することができる。
2. オーバーツーリズムは局所的なものである
市全域で混雑が発生しているのではなく、特定の人気エリアに観光客が集中している。
3. 観光による混雑は観光に限った問題ではない
資源、交通インフラは観光客だけでなく住民や通勤者も利用しており、観光客だけが原因ではない。
4. 技術的解決策だけでは問題は解消されない
何か一つのソリューションを導入すれば解決されるものではなく、複数の利害関係者の間での強力な連携が求められ、特に利害関係者同士が相反する利害を抱えている場合は、長期的な取り組みとなる。
上記を踏まえ、「観光による混雑」「収容力」「許容できる変化の限度」のモニタリングと対策していくことが必要とされている。
オーバーツーリズムの対策
1. 住民向け
1-1 住民への観光振興説明
観光振興を進めれば、地域住民への負荷は避けられない。そのためこれらの負荷軽減の取り組みの説明や、観光振興による住民メリットを訴求していく。
京都市
京都市観光協会(DMO)が「LINK! LINK! LINK!」という暮らしと観光をつなぐポータルサイトを作成し、地域住民への説明コンテンツを提供している。
京都観光の意義・効果 https://link.kyoto.travel/about/
ビジュアル+数値を用いてわかりやすく観光振興のメリットを説明しています。併せてオーバーツーリズム対策の取り組みの紹介しています。
アメリカ フロリダ州 オーランド郡
同様の対策はフロリダ州オーランド郡でも「TOURISM BENEFITS YOU」というページで行われています。

観光によって各世帯が年間10,200ドルの税金を節約できるだけでなく、雇用創出や慈善プログラムなどを促進し、生活の質も向上させています。
https://www.visitorlando.org/about/tourism-benefits-you/
観光による節税効果については定量的に語られていますが、それ以外は京都市よりも定性的な記事で観光振興のメリットを説明しています。
1-2 住民の観光利用促進
地域住民向けのクーポンを配布し、住民の観光
京都市
前述のポータルサイトにて市民向けの観光キャンペーンや割引の提供をしています。
また、観光キャンペーンへの応募には下記のようにクイズへの正解(何回でも解答できる)を必要としています。

ちなみに正解は「C:1.5兆円」となっており、年間観光消費額が全世帯の年間支出の4割と聞くと観光産業が重要な位置づけであると感じられます。
ちなみに、京都市に本社のある企業の売上上位3社は、1位 日本電産(2.3兆円)、2位 京セラ(2.0兆円)、3位 任天堂(1.7兆円)となっており、任天堂よりやや少ないくらいの規模になっています。
北海道倶知安町(ニセコ)
「Kutchan ID+」というマイナンバーカードと連動したデジタル町民証明により、住民が割引を受けられるサービスを展開しています。
京都市が住所がわかる証明書の提示という割とアナログな運用である一方、倶知安町ではシステムで提供しています。
2. 旅行者向け
2-1 入込をコントロールする
制限する
時間・人数制限、予約制導入、課金制度などにより来訪数を制限する
混雑を分散させる
場所、時季、時間の3つの観点で混雑を分散化する方法。
混雑情報提供や空いている時間の活用、レコメンドなどにより分散させていく
2-2 マナー啓発
一部海外の旅行者によるマナーの問題が取りざたされています。これらは旅行者数とキャパシティの話と切り分けて、マナーの問題として対処していくことが必要です。
人数が少なくてもマナー違反が起きれば地域住民との軋轢は生まれてしまいます。
3. 事業者向け
観光教育の提供、認証制度、ガイド育成、分散型観光商品の開発
4. 自然・文化資源
入域制限、維持管理費の徴収、保全プログラム
屋久島(鹿児島県)
繁忙期の登山道利用者数の上限設定(ガイド付きツアーの推奨)。
成果:自然環境の保護と観光品質の維持に寄与。